netkeiba.com のコラムにて、藤岡佑介ジョッキーが、騎手や調教師らをゲストに迎えて語り合う対談コーナー「with 佑」の書籍化です。
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競馬というのは、自分が経験したことのないスポーツなので、普段ジョッキーが何を感じて、何を考えているのかというのは、非常に興味があるところです。
藤岡佑介ジョッキーも本の中に以下のように書いていました。
競馬というのは本当に特殊な競技で、大きなレースともなると 10 万人を超えるファンにライブで観戦してもらえる一大スポーツです。一方で、サッカーや野球と違い、観戦しているファンのなかに〝プレーヤー〟を経験した人がほとんどいないのが現実で、どうしても〝プレーヤーとしての目線〟が伝わりづらい
そういった中で、こうしていろんなジョッキーとの対話を読めるのは、非常に面白いし、勉強になるなと思います。
武豊ジョッキー 2020年9月
本を出版するということで、特別に対談が行われたのが、武豊ジョッキーだそうですね。
武豊ジョッキーというと、積極的に海外に挑戦しているという点が一番印象的です。
中学1年の時に見た、1981年の第1回ジャパンカップの影響が一番大きいそうです。
その後、シンボリルドルフのアメリカ遠征を見て、より一層憧れが強くなり、デビュー3年目の1989年夏には初めての海外。
その時には現役のサンデーサイレンスを見たり、アンブライドルドの調教に乗ったり、と今考えると本当にすごいことです。
アメリカに行ったことでダートの蹄後が気になるようになったり、ヨーロッパで乗ったことで風の抵抗を気にするようになったりしたそうです。
2020年は帰国後の隔離がありながら、凱旋門賞への挑戦。
2021年もブルームへの騎乗で参戦しました。
やはり、それだけ挑戦し続ける姿勢には、頭が下がります。
武豊ジョッキーは19歳でGⅠ勝ち、20歳で全国リーディング、50歳で菊花賞を勝ち、菊花賞は史上最年少と史上最年長で勝利。
「60歳でダービーを勝ちたい」と冗談半分で話していたようですが、本当に実現しそうですよね。
何歳になっても努力を継続して結果を出し続けている姿勢は本当にレジェントという感じです。
川田将雅ジョッキー 2016年4月
藤岡佑介ジョッキーとは同期になりますね。
同期だからこその言葉がたくさんあり、こういった関係性はとても良いなと思いました。
中でも、ハープスターでの凱旋門賞挑戦。
ハープスターの敗戦が日本の競馬界に与えた影響は大きい、との話がされていましたが、再び川田将雅ジョッキーが凱旋門賞に挑戦するのを一番心待ちにしているのが藤岡佑介ジョッキーだなと感じる二人の関係性でした。
また、川田将雅ジョッキーというと、昔はあまりコメントを出さないイメージがありましたが、色々あったようですね。
出したコメントが紙面の都合で縮めたコメントが出てしまって、「こんなこと言ったんか」と怒られたことが何度もあったようです。
これは言いたかったことが変わってくるので嫌だったそうです。
ただ、最近では印象もだいぶ変わってきましたね。
ビタミンSお兄ちゃんのYouTubeチャンネルに出ていた時は、本当に競馬が好きなんだなと感じる場面が何度もありました。
クリストフ・ルメールジョッキー 2016年6月
この対談は、2016年のダービーの直後ということで、サトノダイヤモンドがわずかの差で負けてしまった後でした。
ただ、このダービーは「負けたけれど、すごくいいレースができてうれしい」と話していたそうですね。
レース後、すぐにマカヒキの川田将雅ジョッキーに手を出して、健闘を称え合っていました。
本の中でも以下のように書かれていました。
至って自然に手が出たよ。誰が勝ったとしても、自分の仲間がダービージョッキーになったわけだから、彼の美しい1日を心から喜ぶべきでしょ? 自分が勝ったときも、周りの人たちから「おめでとう!」と言われたいから、自分も仲間の勝利を喜べる人間でいたい。
ルメールジョッキーは、こういう部分が本当に日本人らしいですよね。
2020年のヴィクトリアマイルをアーモンドアイで勝った時も、最終追い切りに乗れなかったルメールジョッキーの代わりに追い切りに跨った三浦皇成ジョッキーに手を出していた姿が印象的でした。
海外で活躍していたジョッキーが、今の日本のリーディングとして活躍しているということは、すごいことですね。
ルメールジョッキーの独壇場ですが、こういうレベルが高いプロの世界だからこそ、若手ジョッキーの活躍に期待したくなります。
また、ルメールジョッキーは武豊ジョッキーについて言及していました。
トップジョッキーとして世界中どこに行っても乗れる状況にある武豊ジョッキーがいるのに、日本人ジョッキーは誰ひとり後を追わない、と書かれていました。
たしかにそうですよね。
偉大な先駆者がいて、それを学べるというのはすごい環境だと思うので、海外にもどんどん挑戦するジョッキーが増えると良いなと思います。
2021年10月現在では、坂井瑠星ジョッキー、西村淳也ジョッキー、団野大成ジョッキーなどが海外へ挑戦していて、頑張って欲しいし、これからも継続して欲しいですね。
四位洋文調教師 2017年5月 / 2020年1月
藤岡佑介ジョッキーは競馬学校生時代に、函館で四位洋文さんのバレットをしていたんだそうです。
四位洋文さんは対談当時はまだジョッキーでした。
2017年の頃は、勝ち星にこだわっていなかったようですね。
四位洋文さんといえば、ウオッカ、ディープスカイが思い浮かびます。
ディープスカイの時は毎日杯からの成長力がすごくて、ダービーではリズムさえ守れば絶対に大丈夫という自信があったとのことです。
そして、その自信は前年にウオッカで勝っていたのが大きかったようです。
シックスセンス、ドリームパスポートと3着が2回あって、ダービーを勝つという大変さなどを感じていたんですね。
四位洋文さんは厩舎とのコミュニケーションをすごく大事にしていたようです。
ジョッキーが感じたことを伝えて、次に活かしてもらう訳ですが、信頼関係に大事になってきますよね。
そして、2020年1月に再登場。
後輩のジョッキーが調教師になった自分を見て、「自分も目指そう」と思うような調教師になりたいと話しています。
その中で大事なのは「人」だと思っているそうです。
スタッフのモチベーションひとつで馬は良くなると考えているそうですね。
僕も、仕事で大事なのは人かなと思っています。
どんな仕事でも、目の前の相手との信頼関係があって、いろんなことが成り立つと思いますし、人を大事にしている四位洋文調教師が、どういう厩舎を作るのか楽しみです。
2021年には厩舎を開業して、3月6日に初出走。
翌7日には初勝利をあげました。
浜中俊ジョッキー 2018年2月 / 2019年6月
浜中俊ジョッキーは2012年に24歳でリーディングを獲得しました。
その後はグレープブランデー、ミッキーアイル、ミッキークイーン、ラブリーデイなどでGⅠを制覇など、活躍も著しかったです。
2016年には落馬負傷があったり、マイルチャンピオンシップでの騎乗停止があったり、大変な時期を過ごしたようです。
マイルチャンピオンシップには奥さんとお子さんも競馬場に来ていたようで・・・・
そのタイミングは祖父が亡くなったタイミングだったそうです。
1週前のエリザベス女王杯の時には既に「1週間もつかどうか」という状況だったようで、どうしても勝ちたかったんでしょうね。
騎乗停止になるほどの騎乗は決して受け入れられるものではないと思いますが、そういうジョッキーの心理や出来事を知れるのは良いことかもしれないですね。
ただ、さらに翌年2017年には、フィリーズレビューで再度の騎乗停止。
この頃は自信もなくし、取材もほとんど受けてなかったみたいです。
その後は重賞を勝てないことも続きましたが、2019年にロジャーバローズでダービーを制覇。
ダービーを勝てたということだけでなく、GⅠも久々でしたし、乗り越えてきたものも大きかったと思うので、本当に嬉しい勝利だったと思います。
また、当日は、師匠の坂口正大元調教師がテレビ出演していて、嬉しさのあまり言葉にならない坂口正大元調教師の姿が印象的でした。
福永祐一ジョッキー 2019年3月
福永祐一ジョッキーといえば、今や大活躍のベテランですが、2018年に19回目にして悲願のダービー制覇となりました。
これだけ実績があり、地位を確立しているジョッキーでも、ここに来るまでには、色々な経験をしてきたことがよく分かります。
福永祐一ジョッキーといえば、スタートが上手い印象ですが、ゲートが開く瞬間がスローモーションで見える時があるらしいですね。
スタートの技術は本当にすごいと思います。
このスタート一つとっても、いろんな大事なポイントがあるようですね。
この対談はダービーを勝ってから1年弱が経っていましたが、ダービーを勝つ前と後では気持ちの面でも大きく違うようですね。
あと、福永祐一ジョッキーがメディアのコラムやインタビューで語る、ということについて取り上げられています。
ジョッキーが発信をするということについていろんな考えがあるようですが、最近では福永祐一ジョッキーがメディアで語る話が、すごく勉強になることが多いです。
最近では、カンテレで「教えて!福永祐一先生」というのをやっています。
福永祐一ジョッキーが騎乗予定の馬は、こう乗ったほうが良いということや、コースの解説などを話しているのですが、これが非常に分かりやすく勉強になります。
また、ビタミンSお兄ちゃんのチャンネルに出演した際には、福永祐一ジョッキーにいろんな質問をして、それを回答してもらうというのがありましたが、これもいろんな話があり、すごく分かりやすく勉強になることばかりでした。
こういった内容をジョッキー本人から聞けるというのは本当に有り難いですね。
三浦皇成ジョッキー 2019年4月
三浦皇成ジョッキーは2008年にデビューすると、函館2歳ステークスでデビュー5ヶ月で重賞勝利。
武豊ジョッキーの新人年間最多勝記録(69勝)を更新して、91勝をあげました。
デビュー直後は結果が良かったこともあり、いろんな方面から人が集まっていたようですが、成績がちょっと悪くなると、周りから人が減ってしまったり、というのがあったそうで、対人恐怖症みたいなこともあったみたいです。
武豊ジョッキーの記録を超えたというのは、いろんな面で苦労があったんでしょうね。
藤田菜七子ジョッキーについて言及する場面がありますが、メディアに取り上げられたり、大きく注目されることは大変で、そういう気持ちを分かってあげられる立場なのかな、ということを語っています。
プロの世界ですし、結果や状況で注目されたり、求められるものが大きくなるのは仕方ないと思いますが、それでも必要以上に取り上げ過ぎじゃないかと、感じる場面は多いですよね。
2021年にはJRA通算10000回騎乗を達成しましたが、あとはJRAのGⅠですね。
やはり美浦のジョッキーでは、三浦皇成ジョッキーに頑張って欲しいので、今後もさらなる活躍を期待したいと思います。
松山弘平ジョッキー 2019年6月 / 2020年5月
2009年にデビューして、36勝で最多勝利新人騎手を獲得。
その後は伸び悩んだ感じでしたが、2015年頃から変わってきましたかね。
2015年はJBCスプリントをコーリンベリーで制して、GⅠ初勝利をあげました。
新人賞を獲りながら、2、3年目は落馬も続いたりで、騎乗馬がほとんどいなくなってしまった時期もあったようです。
松山弘平ジョッキーといえば、騎乗数が多いことが特徴ですかね。
1日、11頭、12頭乗ることも珍しくないと思います。
騎乗馬がいなくなった経験をしたことで、「いつ乗り馬がいなくなってもおかしくない」という危機感を常に持っているようです。
そういう危機感を持つことは非常に大事だと思います。
そして、2020年にデアリングタクトとの活躍がありました。
エルフィンステークスで強い勝ち方をしたこともあり、人気がありましたが、結構プレッシャーを感じていたようです。
デアリングタクトの活躍の裏には、馬を信じて自信を持って乗っている松山弘平ジョッキーの姿があったと思います。
たくさん数も乗る中で、そういう馬との信頼関係を築くのが上手いのかなと思います。
2021年には、JRA通算10000回騎乗を達成、上記の三浦皇成ジョッキーの記録を抜いて、史上最速および最年少での記録となりました。
横山典弘ジョッキー 2019年9月
ジョッキー人生に転機をもたらした馬という話題がありました。
一般的に言えば、メジロライアンになるんだと思いますが、馬名を出しても誰も覚えていないような未勝利馬でも良い馬はいたという話をしていました。
「心を擦り合わせることができれば、いい走りができる」と書かれていたのが印象的です。
横山典弘ジョッキーが会心のレースでガッツポーズをすることがあります。
それも、重賞やGⅠじゃなく、平場のレースだったりもしますよね。
2009年にはロジユニヴァースで念願のダービー制覇。
デビュー24年目、15回目のダービー挑戦でした。
皐月賞で惨敗して、レース当日は良くなっていると感じたものの、信じきれないまま乗ったそうです。
それが逆に良かったかもしれないと語っていました。
勝負事は力を入れた時ほど、ろくなことがないと話していました。
人間の勝ちたいという欲が一歩前に出てしまうと、それが勝負の邪魔をしてしまうんだと思っているそうです。
横山典弘ジョッキーのポツンは、物議を醸すこともありますが、こういう姿勢を持っていることを知ると、見方も変わってきますね。
横山典弘ジョッキー自身も以下のように言及されていました。
ポツン騎乗とひとくくりに言われても、馬の状態の良し悪しを含め、ホントにいろんなケースがあるから
競馬を外から見てるだけでは分からない部分が本当にたくさんありますね。
和田竜二ジョッキー 2019年11月
和田竜二ジョッキーも、松山弘平ジョッキーらと同じく、騎乗数が多いですね。
数を乗らないほうが逆に疲れると書かれていました。
和田竜二ジョッキーは、勉強会という形で色々なことを学んできて、そういったことを理解して乗っていくうちに、競馬がどんどん面白くなってきたそうです。
世界のトップジョッキーは、そういうことを誰かに教えられて理解して乗っているのか、それとも感覚的に乗っているのか、というのを考えているんだそうですね。
馬を抑えるというのも、単に抑えるんじゃなくて、馬に合わせるということが書かれていました。
ムーアジョッキーの話が出てくるのですが、和田竜二ジョッキーが乗ってめっちゃ掛かった馬が、ムーアジョッキーが乗ったら、全く掛からなかったことがあり、結局掛かると思っていたのは自分なんだと分かったとありました。
こういう日本人ジョッキーと外国人ジョッキーの考え方の違いとか面白いですよね。
和田竜二ジョッキーは、以前大井競馬場のイベントで生で話を聞いたことがあります。
イベントやメディアに登場する時は「明るいお兄さん」という感じですが、インタビューとかの受け答えを聞いてると、本当に競馬に対する真摯な姿勢を感じることができます。
やっぱりジョッキーの生の声を聞ける機会が増えると良いですね。
池添謙一ジョッキー 2016年7月 / 2020年6月
GⅠの大舞台といえば、池添謙一ジョッキーという感じですね。
2016年の対談なので、カレンミロティックやショウナンパンドラの話が出ていました。
池添謙一ジョッキーは、ものすごく極端に言えば、「俺、このレースで負けたら終わりや」と思って臨むようで、やっぱりそういう想いが騎乗に現れているように感じますね。
騎乗する前は勝つためのプランを考えて、プラン通り乗れる時もあれば乗れない時もあると思います。
また、プラン通り乗れても勝てない時もあるでしょうし、勝っても次のレースでは乗れないこともあると思います。
そういう世界で戦っているジョッキーは、本当に勝負の世界だなと感じます。
また、2020年の対談ではグランアレグリアの安田記念の話がありました。
3コーナーで芝の塊が直撃して、右目はなんにも見えない状態だったそうですね。
その中で、アーモンドアイありきの競馬ではなくて、グランアレグリアのタイミングでスパートしたいと思っていたそうです。
高松宮記念で乗っていたこともあり、自信を持って乗れたんでしょうね。
そんな大舞台に強い池添謙一ジョッキーですが、GⅠには絶対に乗りに行くと書かれていました。
その日に乗る馬が1頭でも行くそうですね。
GⅠをひとつ乗るだけで吸収できるものがたくさんあるそうで、やっぱりレベルの高いところに、自分の身をどれだけ置けるかというのが大事なんですね。
まとめ
藤岡佑介ジョッキーが対談企画を始めた当初からの目標が「ひとりでも多くの人に、競馬の魅力をもっともっと伝えたい」ということだそうです。
ジョッキーは、人それぞれ考え方や騎乗論などがあると思いますが、そういう想いを聞ける場というのは、なかなかありません。
手の内や考えを明かしたくないと思うこともあると思いますし、ちょっと話せば、それに対して色々言われたりする、そういうのも多いと思います。
ただ、やっぱり見ている側も「競馬が盛り上がったら良いな」とか「競馬の魅力がいろんな人に伝われば良いな」とか、思う人もたくさんいると思います。
もちろん僕もその1人ですし、こうやってジョッキーの話を聞ける機会というのは有り難いですね。
面白い本なので、ぜひ読んでみてください。
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